フィル少年はベッドの上に寝ていた。部屋はオレンジ色にうす明るかった。細い針のような日光が、とざしたカーテンの聞からさしこんでいた。フィルはふだん以上に、そわそわしていた。「何時?」彼は辛抱しきれなくなってさけんだ。前に一度さけんで、静かにしなさいといわれたのだったが。「まだ起きる時閉じゃありません」ミス・フルクスが廊下のむこうからさけぴ返した。その声はこもって聞こえた。ちょうど背の上衣を半分着かかったところで、頭は絹の暗やみの中にあり、両腕はそれぞれの袖への入口を見つけようとめくら減法にもがいているところだったからだ。フィルの両親が今日着くはずで、昼食にはこのガッテンデンに来るはずだった。ミス・フルクスの青の晴着も絶対必要なわけだった。「でも何時なのよう?」子供は怒ったようにさけぴ返した。「先生の時計では」ミス・フルクスの頭が明るみに出て来た。「一時二十分前よ」彼女は返事した。「静かにしていなくてはだめですよ」「なぜ一時じゃないの?」「ないからないんです。もうこれ以上お返事しませんよ。もしもう一度さけんだらお行儀が悪かったってお母さまに申し上げますよ」「先生の目意地悪!」フィルは涙のこもった怒りを声にこめて、やり返した。ただ非常に低い声だったからミス・フルクスにはほとんど聞こえなかった。「先生なんかきらいだい!」もちろんきらいではない。ただするだけの抗議をしたのだ。これで面目は立った。ミス・フルクスはお化粧をつづけた。彼女は胸騒ぎがし、心配になり、苦しいくらい興脅していた。フィルを何と思うだろう。自分の育てたフィルを?「おとなしくしていてくれるといいが」彼女は考えた。「おとなしくしていてくれると」彼はその気になれば天使のようにいい子にもなれる。彼が天使でない時は、必ず何か理由があるのだ。が彼を知らないと、理解しないと、その理由がわからない。おそらくお二人には理由がわからないだろう。何しろ長い間お留守だったのだから。フィルがどんな子かお忘れかもしれない。それに、いずれにせよ、今どんな子か、この数カ月の間にどんなふうに育ったかはど存じないわけだ。そのフィルを知っているのは私だけだ。知ってそして愛している。とても、とても愛している。私だけが、でもいつかはフィルと別れねばならない。自分にはフィルに何の権利もない、何の妥協もできない。ただ愛するだけ。むこうはいつでも好きな時に私からフィルを取り上げることができるのだ。